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CHUのドキドキハラハラBL・漫画・小説ブログです。
2019/08
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原ちづ書いてみた。

「そうやって笑ってろ。悪いようにはしねえから」の前の話。
お互い関与しまい、させまいとぎくしゃくしてるとき。
それでも甘くできるのは原田クオリティーにちがいない。



 新撰組に拘束という名の保護を受けるようになってから、千鶴は野犬の群れで暮らしているような気分を味わった。前後左右、いつ噛みつかれるかとおびえる毎日。理由は様々なようだが、大きな理由の一つは、狭い屯所内で幹部クラスしか許されない個室を、力も知恵も金も無いただの子供が与えられ優遇されていることにあるらしい。特に口さがないものは何であいつがと声高に千鶴を指さして非難した。
 
 部屋をもらって幹部に守ってもらって、はたから見れば優遇だろうが、「そんなことない」が千鶴の言い分だ。なぜなら実際は、腕の立つ新撰組幹部に四六時中見張られている状況で、部屋をもらえたのも、いつも幹部がそばにいるのも、機密保持と見張りを兼ねてで、「保護」とはそれを最大限良く捉えたに過ぎないのだ。
 人によっては「何かあったらお前を殺すから」と明確な意思表示を示してくる者もいるし、優しい人もいるにはいるが、その人たちも瞳の奥は常に冷静に値踏みしているように千鶴は感じられた。つまり、少しでも慎重な人であればこう評しただろう。状況は四面楚歌だと。
 
 今まで敵意など向けられたことのなかった千鶴は、最初の2週間ほぼ部屋から出なかった。ひと月経って置かれた環境に耐えられなくなってひとりで屯所内を歩くようになった。
 そもそも千鶴と、千鶴をよく思わない一般隊士たちとは住居が違うため、あちらの陣地に行かなければ安全なのだ。あとは千鶴が不審な行動をとらなければいい。
 消去法で得た安寧は微々たるものだったが、千鶴の心を救っていた。
 その日も、暴力的な太陽の熱と茹で上がりそうな湿気に追い立てられるようにして部屋を飛び出していた。京に反響するけたたましい油蝉の泣き声で耳がおかしくなりそうな日だった。
 
運が悪い。
千鶴はばったりと道場の床に倒れ付しながら後悔していた。
「くぉら構えんかい、そんなことで土方副長の御身お守りできると思うとるんか」
「始まってまだ2分も立ってねえぞぉ!」
がらがらのだみ声が不機嫌そうに唸りを上げ、足元にくずおれた千鶴の肩をがつっと蹴った。「うっ」と呻くものの、千鶴は起き上がれない。ふんばっても、竹刀をたたきこまれた手首やあばらがずきんと痛んで体が硬直してしまうのだ。
 隊士達はぐにゃぐにゃに力の抜けた体を引っ張ったりつついたりして遊んでいる。まるきり子供のふるまいだが、大人の体と力でやられればいじめではなくいたぶりだった。
 この子供じみたいたぶりは一般隊士の住まいである前川邸の広間で行われた。千鶴があまりの暑さに八木邸門前でふらふらしていたところを、同じく暑さで虫の居所が悪い隊士に見つかって、「稽古」という大義名分の下に無理やり前川邸に引きずりこまれたのだ。
「は、く・・・っう」
気力で体を動かそうともがくが、汗をかいているような床をすべるだけだ。痛みなのか熱気なのか、体が焦げたように熱い。
「ほら水だよ!」
ざばあっと全身に冷たい水が引っ掛けられる。
「ちったあ目が覚めただろう」
衣服が体に張り付く心地はともかく目は覚めて、ゆっくり仰ぐと大柄な男が数人が壁のように千鶴の周りに立っていた。(多人数で卑怯ものめ)と心の中で罵るが、口にしたところで返答は目に見えている。どうせ、ありがた迷惑な親切心・先輩心を掲げられて調子づかせるだけだ。
 ひゃはと下卑に笑う右端の男が空になった盥をからからとまわしている。どうやらこの男が千鶴に水をかけたらしい。
彼らは今、皆気が大きくなっている。この熱気のせいだろうか。節度を失った下品な声が気ちがいのようだ。千鶴を心配するものや、彼らを止めるものはだれもいない。
 斬った張ったをしている人たちは、皆こういう残酷さを備えているものなのだろうか。あるいは、残酷な行為に対して恐れを抱かなくなってしまうのだろうか。千鶴は彼らをぼうと見上げたまま内心で失望と恐れを感じたが、新撰組に保護拘束されている身を思って諦念に心を暗くした。
(帰りたい・・・)
 不意に弱気になって、千鶴は目を潤ませた。
 故郷の深い緑を匂いまで鮮明に思い出す。薬草の茂る裏山を背にした小さな診療所や、年中薬草の匂いがした屋内、やさしい父に、贔屓にしてくれた心の温かな江戸の町人。決して楽ではなかったが、痛くも苦しくも無かった江戸での日々。
 隊士に乱暴に首裏の襟をもとを掴まれ起きろと揺さぶられるが、力は抜けていく一方で瞼が落ちていく。このまま目を閉じれば、もしかしたら一層暴力が酷くなるかもしれないが、あわよくば諦めてくれるかもしれない。それを判断する能力も今の千鶴に欠けていた。
(早く・・・終わらないかなあ)
 早く全部が終わって父親を見つけてここから出て行きたいと千鶴が思ったとき、ズドォンと大砲でも打ち込まれたような轟音が響き渡った。
「え・・?」
 上半身が浮き上がるほど髪の毛を引っ張られていた千鶴は、その音の発生源を目撃した。道場の入り口、渋面を作った土方と、悪鬼のような顔で壁に大穴をあけている原田がいる。
「おいてめぇら、・・・なにやってやがる・・・!?」
 大型獣のうなり声のように低い声が脅した。千鶴は最初自分が怒られたのだと思って全身を硬直させた。だが、喉元に刀をつきつけられているような殺意をたどれば、それじゃ千鶴ではなく周囲の男に向かっている。
とばっちりの千鶴でさえこの威圧に皮膚の痛みを感じているのだから、彼らは相当だろう。眼には見えないが、彼らの全身が心臓のように小刻みに震えて指先一つ動かせないのがわかる。
「何やってやがるって聞いてんだ!!」
 猛獣に噛み殺される瞬間を怯える彼らに、原田の激昂が追い打ちをかける。
 近所中に響く大声に地面が揺れ、数百の弓矢に射抜かれたような激しい威圧に押された隊士達は立ってることもできず一様にへたり込んだ。
 一気に恐慌状態に陥った彼らは何事かを言い訳しながら足で床を掻いて必死に逃げようとしている。解放された千鶴はぐったりと倒れ付した。ぼんやりとした視界に、歩み寄ってくる役者のような滑らかで鋭い印象の足と、足首まで力強い骨格を有した足を見つける。
 鋭い印象の足が途中で止まり、もうひとつの足は千鶴の傍で膝を折ったようだった。
「千鶴」
 原田だ。さっきとは打って変わって静かな声に、千鶴はほっとした。
「は・・・らださん?」
「良い。きついなら、喋んな」
 彼はそう言うと、汚れるのもかまわず、びしょぬれの千鶴をゆっくりと仰向けにした。骨折をしていないか、内臓は傷ついていないかと、注意深く丁寧な所作だった。
仰向けにされて、頭の血が一瞬ぐるんと回った不快感があったが、目を閉じていれば少しはましだった。
「大丈夫か・・・?」
「・・・はい・・・」
 千鶴の後ろ頭を支えていた大きな手のひらを静かに抜いて、原田は千鶴の顔に張り付いた髪の毛を払った。あらわになった白い額をゆっくりと撫で、汚れた丸い頬を撫でる。
細い息を吐いて優しい手つきにされるがままになっていた千鶴だが、内心は驚いていた。新撰組の人間にこんな風に優しくされたことなど今までなかったし、何より組長が、優しい手を持っていることが意外だったのだ。
ゆっくりと千鶴が瞼を見上げると、苦味の混じった穏やかなまなざしをした男が千鶴を見下ろしていた。
 そのとき初めて新撰組の組長としての原田ではなく、ひとりの人として意識した。初めて人として感情を向けられたからだと思ったが、むしろ千鶴が彼らを人とは思っていなかったのかもしれない。少なくとも普通では無いと思っていた。
 人だった男は、千鶴の頬を撫で、よかったと呟いた。
「顔は、傷ついてねえな。・・・可愛いまんまだ」
原田がくしゃりと顔をゆがめた。
「・・・・・ひとりで痛かったろう」
「・・・え?」
「悪かったな、すぐに来てやれなくて」
 原田は悔恨に顔をゆがめて謝罪した。千鶴は何もいえなかった。息が詰まるような気持ちと、胸にじゅんとした熱い潤みが生まれたのを感じる。
何かを言おうと開いた唇を、親指がそっとぬぐう。遠まわしに、喋らなくていいという合図だった。
「おい、原田ぁ」
 座り込む隊士達を仁王立ちでにらみつけていた土方が原田を呼んだ。
「動かせそうなら雪村を部屋まで連れて行ってくれ」
「ああ、了解」
 さっと頷いた原田は、千鶴の膝裏に腕を通し上半身をささえた。軽々と腰を上げる様に人一人を抱える負担は見当たらない。見た目以上にこの男たちは力があるのだ。そういえばここに来たばかりのころ、細身の土方に猫の子のように腕ひとつで持ち上げられたこともある。
 あっという間に抱き上げられ、視線が高くなった。大きな手のひらは簡単に千鶴の肩と二の腕を包み込む。
「さぁて、てめえら」
 歩き出した原田と千鶴を背で見送った土方からゆらり、と鬼の気迫がたちのぼった。その変わりように、土方が千鶴のために押し隠していたのだと分かる。千鶴からは背しか見えない土方が、どんな表情をしているのか、それは彼の前に膝を折り、断罪の瞬間を待つ隊士たちしか知らない。
「最近入った・・・そう、新八の組のもんだったな? たしか石橋、五味、永谷に、小山内だったか?
 新八も呼んでゆっくり話を聞いてやろう。見るからに戦えそうもねえひょろっこいガキを集団でいたぶる、道義もしらねえ馬鹿どもがてめえの組にいるってなぁ・・?」
土方の怒りと未来への恐れに石橋たちは絶叫に近い悲鳴をあげたのを背で聞いた。
 
 
 
前川邸の庭に降り、門を抜けて八木邸の門をくぐる。
門を入ってすぐに島田と出くわし、ぎょっとした彼に湯と布を申しつけて原田は家に入った。
原田が歩くたびに、太い足音と廊下の軋んだ音が響いた。先ほどは警鐘を鳴らすようだった油蝉の鳴き声も、今はそう五月蝿く感じない。暑さも、水浴びをさせられたせいか気にならなかった。
気にかかることといえば、原田が千鶴を抱き寄せることだ。無駄とはいえ、心情的になるべく凭れすぎないようにしているのに、原田は千鶴を抱き寄せて「そう固くなるなよ」とまで注意してくる。でもと遠慮してもあの心配顔で「頼むから」と諭されては、千鶴は諦めるほかなかった。
怖いだけなら構えようもあるが、ただ純粋に優しくされると無碍に出来ない。
「よし」
 原田の太い2本の腕と鍛えられた大きな体にしっかりと引き寄せられ、人に抱かれているとは思えない安定さに千鶴は緊張を少しだけ解いた。けれど、密着した体にむしろ別の意味で緊張して体がこわばるのが分かる。
「・・・なあ、ほんと痛いとこねえのか?ガマンとかしてねえか?」
「大丈夫です」
少し時間が経ったせいか、痛みは大分ましになっていた。まだ竹刀を叩き込まれた胴や手首は軋むが、動かせないほどではない。
原田はしばらく疑っていたが、千鶴が平気ぶるので仕方なさそうに「そうか」と言った。
「・・・しかし、なんであっちの屋敷なんか行ったんだ?良いことねえってわかってんだろう」
「その、…門の前で、手をひっぱられて」
「逃げられなかったってか?」
ふう、と溜息がこぼれおちる。
その表情をうかがい、千鶴は視線を落とした。庇うわけではないが、彼らにとっても自分にとっても、あまり良い状況にならないような気がした。特に、今より監視の目が強くなったら自分はきつい。
なんとか双方穏便にすまないかと考えを巡らせ、思いついたことを原田に告げた。
「えっと、・・・稽古に、誘われたんです」
「稽古? 嘘つくなよ」
「ほ、本当です。」
「あれが稽古だとでも言うのか?」
「で、でも・・・」
千鶴は口をつぐんだ。原田が苦笑する。
「もういい。お前が何に怯えてんのか知らねえが、俺が今考えてるのはお前の身が本当に無事なのかってことで、お前に考えて欲しいのは自分の身の安全だ」
「・・・はあ・・・」
最初といい、先ほどといい、まるで壁に向かって話しているような疎通の取れなさに、千鶴は目を伏せたままうなずいた。よっぽど強固に言い張らなければ基本的に意思疎通は図れないのだろうか。
「・・・まあ、大した腕の隊士じゃなくてよかった。これが・・・」
鬱々とため息をついた千鶴の頭上で、低く落とされた独白が耳に入った。何となく不穏な気配を感じとって顔を上げると、暗く鋭い眼の新撰組組長の姿が目に入る。
首筋をひやりとやられたようで千鶴が固まっていると、原田ははっとした様子で笑み繕った。
「ああ、いや、何でもねえ。悪い」
「・・・は、はい」
千鶴はさっと顔を伏せた。間近で目を見てしまったせいか、それともこんなに近くにいるせいか、先ほど途中で切られた言葉が何となく理解できてしまった。
脳裏に浮かぶのは、新撰組とはじめて出会った狂気の夜。修羅のような血に狂う隊士たちの姿。思い出すだけで、体の体温がひとつ下がった心地がする出来事。
長い廊下は外界より気温が低く、濡れた体にはひんやりと冷たくて、おそろしい出来事を思い出してしまったこともあって、体がカタカタと震えた。
「寒いのか?」
「あ、ちょ、ちょっとだけ・・・」
 原田の質問に半分は嘘の返答をする。この件に関しては、一切の関与を許されていない。みだりに興味を持ったり関わったりすれば、生死に関わるときつく言われている。沖田や山南の鋭利な刃物のような脅しまで思い出してしまって、ますます心臓が激しく高鳴った。
 明らかに寒さだけが理由ではない震えように、おそらく原田は気づいただろう。だが、千鶴に何も言わなかった。
「――…千鶴、ほら、こうすりゃ少しは寒くねえか?」
 何も言わず、ただいっそう深く千鶴の体を抱え込んだ。
額に原田の熱い首筋が触れている。少し甘いような男の匂いを感じた。視界に移るのは肌色で、何も見えない。わざとそうされているのだと直感的に分かった。
「な。怖いことなんか、もう何もねえよ。 もう、何も見なくて良い。聞かなくて良い。」
慰めの言葉が降る。
千鶴はゆるゆると体のこわばりを解き、原田の肩に頭を預けた。
原田の言葉が、遠まわしに新撰組に深入りするなと拒絶していると分かっていたけれど、この頃はまだ、それを優しさと受け取れていた。
 
 
 
 
END
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「そうやって笑ってろ。悪いようにはしねえから」の前の話。
お互い関与しまい、させまいとぎくしゃくしてるとき。
それでも甘くできるのは原田クオリティーにちがいない。
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material by アルフェッカ

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